2015年ころのことです。当時私は商品企画部の企画部長の立場で「EIBS7」の開発に携わっていました。
2011年の東日本大震災以降、日本国内で地震や台風などの自然災害が頻発し、災害時の備えとして生活を維持するためのレジリエンスプロダクトである非常用電源への注目が高まっていました。当時、普及していた太陽光発電システムには太陽が出ている間だけ電力を利用することができる一定の自立機能がありましたが、非常用電源としては不安定。そこに蓄電池を組み合わせることでより実用性が高まることから、各電機メーカーは蓄電システムの開発に着手していました。
また、2009年11月に国内で始まった再生可能エネルギーの固定価格買取制度「FIT」が、2019年以降、10年間の買取期間終了を迎え、“卒FIT”後に蓄電池の需要が増えるであろうと考え、新しい蓄電池システムの開発をスタートさせました。
私は設計開発グループのメンバーとして、「EIBS7」開発に最初から最後まで関わりました。開発にあたっては、一般住宅への導入を想定して多角的に検証し、既存製品にはない実用性や利便性を追求しました。
「EIBS7」はパワーコンディショナと蓄電池の2ユニットで構成されています。パワーコンディショナに関しては、定格容量5.5kW、8.0kW、9.9kWの3機種を同時並行で開発・製品化し、多様化する消費者の生活スタイルに合わせた製品供給にこだわりました。複数のパワーコンディショナを組み合わせることも可能とし、他社製品と比べてシステム設計の自由度が高い製品になっています。
とはいえ、容量が異なる3機種のパワーコンディショナを同時並行で開発したのは、設計開発グループにとっても大きなチャレンジでした。お客様への納期が決まっている中では、スケジュールとの闘いでもありました。
一方、蓄電池に関しても、私たちは既存製品にはないスペックを実現しました。蓄電容量は既存製品を大きく上回る7kWhにパワーアップ。また業界で初めてAC100VとAC200Vの電化製品での使用が可能な“全負荷対応”を実現しており、一般的な住宅での利便性が大きく向上しました。
さらに蓄電池ユニットを2台まで後付けで増設できる点も、大きなポイントです。家族の成長など生活スタイルの変化によって、住宅が消費する電力量は変わってきます。私たちが開発した新システムは、既存のハードとソフトはそのままで蓄電池だけを増設が可能。最初に太陽光発電システムとパワーコンディショナだけ設置し、後から蓄電池を増設することもできます。さらに、複数台増設した蓄電池の稼動バランスを自動的に調整・制御することで、一方の蓄電池だけに負荷が集中して劣化が早まることを避けています。
また私たちは、システム設置時の見た目のスマートさにもこだわりました。当時、既存の住宅用蓄電システムはパワーコンディショナ、蓄電池、充放電器など3〜4つのユニット構成になるのが普通でした。住宅の外壁などに設置すると、大きさの異なるユニットと配線などがゴチャゴチャ並んで、建物の美観を損ねるケースがありました。そこで「EIBS7」は、必要最小限の2つのユニットからなるコンパクト設計なので、設置後の見た目もスッキリ。施工の手間も軽減できます。
このコンパクト設計を実現するために、蓄電池ユニットの中に充放電器を組み込んだことも、設計開発グループにとって大きなチャレンジでした。蓄電池本体は温度の影響を受けやすく、充放電器が発する熱によって劣化が早まってしまう恐れがあり、従来製品では別々のユニットに収められていました。その分、ユニット数が多くなっていたのです。「EIBS7」では蓄電池と充放電器を1つの筐体にまとめるために、熱の影響が及ばないギリギリの距離を探るなど、細かな調整を繰り返しました。
私は当時、システムにおける制御ソフトの開発に携わっていました。「EIBS7」のパワーコンディショナは、インターネットと接続してご家庭にあるスマートフォンやタブレットなどの汎用端末で運転管理を行うことができます。システム運転状況をリアルタイムで確認できるほか、あらかじめ設定された管理モードの中から最適なものを自由に選択できるようになり、ユーザー自身のライフスタイルに合わせて電力効率を高めることができるシステムとなっています。
結果には満足していますが、その過程では大きな苦労もありましたね。先ほど相馬が述べていましたが、まさにスケジュールとの闘いでした。
新たに開発したシステムは、電気安全環境研究所(JET)の認証を受けて初めて製品化されます。既存の太陽光システムの場合、JET認証には3カ月ほど時間がかかりますが、今回の蓄電ハイブリッドシステムは3倍の9カ月くらいかかるといわれていました。その上パワーコンディショナを3機種同時並行で開発していたことも、認証にかかる時間を読みづらくしていました。他メーカーも同様の新製品を開発しているため、認証評価試験への申請が多く、限られた“枠”を確保するだけでもひと苦労でした。
また、2018年6月に田淵電機が事業再生ADRを申請したことで、一時的に技術者の退職が相次ぎ、限られた人材で開発を進めざるを得ませんでした。当時のメンバーにはかなり負担がかかったと思います。
ただ弊社は、太陽光発電システムや蓄電池の開発に関するさまざま経験やノウハウの蓄積と、そこから生み出した新しい技術があったから「EIBS7」の製品化も実現できました。1からの製品開発だったら、ここまではできなかったでしょう。
近年は環境問題や再生可能エネルギーに高い関心を持つ消費者が増えています。「EIBS7」が実現した設計の自由度、柔軟性、運転管理のしやすさによって、環境意識の高い消費者が、より導入しやすくなったといえるでしょう。
ダイヤモンドエレクトリックホールディングスは中期経営計画の中で「車と家をものづくりでつなぐ」ための技術追求を打ち出しており、V2H(Vehicle-to-Home)などを視野に入れた事業展開を図っています。「EIBS7」で培った技術やノウハウも、そうした新分野の事業のベースになっていくことになるでしょう。