要素技術の集大成「V2X対応車載用充電器」

Innovation 06
要素技術の集大成「V2X対応車載用充電器」
※所属・役職は公開当時のものです

高い技術力と強い個性を持った技術者が、
意見をぶつけ合いながら生み出した新技術

  • ダイヤモンドエレクトリックホールディングス株式会社
    プリンシパルフェロー(専務級)CTO
    森 信太郎さん
  • ダイヤゼブラ電機株式会社
    CTO室 フェロー
    権瓶 和彦さん
  • ダイヤゼブラ電機株式会社
    CTO室 チーフ・イノベーション・エンジニア
    木下 雅志さん
  • ダイヤゼブラ電機株式会社
    CTO室 V2X開発1チーム 主席技師
    中山 大禎さん

温室効果ガス削減に貢献。
「車と家をものづくりでつなぐ」ための新たな技術開発。

V2X対応の車載用充電器とは、どのような技術なのですか。

権瓶

V2Xとは、どこでも電化製品を使用可能なV2L(Vehicle-to-Load)、電気自動車の蓄電池を災害時の非常用電源として活用できるV2H(Vehicle-to-Home)、また電気自動車から系統に放電し系統安定化を図るV2G(Vehicle-to-Grid)を総合した機能を意味します。近年、太陽光や風力などを利用した自然エネルギーの普及が進む中、大きな課題とされているのが電力系統の不安定さです。例えば太陽光発電の場合、曇りや雨の日は発電量が大きく減少し電力が不足してしまいます。そのため、不足分を火力発電などで補い、電力系統を安定化させています。この発電機の代わりに電気自動車やハイブリッド自動車に搭載されている蓄電池に蓄えられた電力を放出させて、減少分を補う技術です。
こうしたV2X技術を進化させることで、再生可能エネルギーの導入量を増やす事に貢献すると共に、将来は自家用車の蓄電池から売電してインセンティブを得られるなどのメリットも検討されています。

なぜ、そうした技術開発が必要とされたのですか。

気候変動、異常気象など、地球規模の環境問題を引き起こす温室効果ガス(CO2)の排出量を大幅に削減し、温暖化を阻止するため、1995年に最初のCOP(Conference of the Parties 締約国会議)1がベルリンで開催され、以降、新たな削減目標が検討されてきました。
2021年、英国北部のグラスゴーで開催されたCOP26では、CO2削減は待ったなしの状況であることが世界的に認識され、より一層の早期削減が目標とされました。
このため、多くのCO2を排出している化石燃料による発電を、早期に再生可能電力に置き換えることが必須となります。こうした全世界的な大きな流れの中、わが国は電源構成における再生可能エネルギーの比重を大きくするため、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル宣言」を表明しました。その中で再生可能エネルギーを36〜38%程度に拡大する目標が掲げられ、日本企業はそれぞれの事業分野において目標達成のための努力が求められています。
弊社では、将来パワーエレクトロニクス分野で必要になる電源変換技術を重要視し、特徴ある要素回路の技術開発を行ってきました。さらに従来から有している車載電装設計・製造技術と、新たに仲間化されたパワコン開発部門で培った系統連系技術を組み合わせることによる「車と家をものづくりでつなぐ」という企業ビジョンを実現化させる土台が出来上がりました。これにより再生可能エネルギーの利用拡大に寄与するV2X対応の車載用充電器の開発を一層加速することが可能となったわけです。
ただ、現時点ではV2Xの普及のカギとなる売電システムに関する法整備が日本国内では進んでいないので、一足早く法整備が進んでいる北米市場を想定した技術開発を推進しています。

COVID-19ウイルス感染禍でリモート開発できる環境整備。
小型化と安全を両立させ高い電力密度を実現。

開発プロジェクトはどのように進められたのですか。

木下

開発がスタートした2019年当時の弊社は、ダイヤゼブラ電機の前身である旧田淵電機とダイヤモンド電機の合併を間近に控えたタイミングでした。ですからこのプロジェクトは、両社の技術者が1つのことに共同で取り組む、初めての機会となったのです。旧田淵電機が持つスマートインバータ技術やダイヤモンド電機が持つ車載電装品技術など、両社の得意分野を持ち寄ることでシナジーが生まれることに期待が集まり、チーム編成もそうした視点によって行われました。
特にスマートインバータ技術は電力系統を安定化させるために不可欠な技術であり、旧田淵電機はその分野で突出した技術を有していました。同時に北米における法律や規格にも精通していたので、今回の技術開発の大きな力となりました。

中山

開発は大阪、東京、新潟の3拠点を横断したかたちで進められました。ソフトウェアの制御設計では、MILS(Model in the Loop Simulation)やPILS(Processer in the Loop Simulation)など、実機動作の前にシミュレーションで確認できる環境を構築しており、リモートで作成したソフトウェアを設計通りに実機で動かすことに成功しました。
開発スタートの翌年(2020年)にCOVID-19が感染拡大し、弊社でもほぼ全ての技術者が自宅でのリモートワークを余儀なくされたのですが、リモートを前提とした開発環境を構築したことで、COVID-19ウイルス感染禍でも開発を中断することなく進めることができました。この経験は、COVID-19ウイルス感染禍のニューノーマルにおける技術開発の可能性を広げたという意味で、非常に有意義だったと感じています。
本製品は小型化に注力したことで世界最高クラスの電力密度を実現しましたが、その分、安全規格との両立にも細心の注意を払いました。また、電力変換部の要となるトランス設計では、コア材・線材ともに複数の組み合わせで試作を行ない、机上計算と実機試験の差を確認しながら慎重に設計を進めました。「これからの社会に貢献する新しい製品」を作る上では、地道で系統だった新規設計プロセスが重要なので、苦労が多い中でも決して手を抜くことなくやりきりました。

“尖った”メンバーが意見をぶつけ合い、
強力なアウトプットを生み出す理想のチーム

旧田淵電機とダイヤモンド電機の技術者によるシナジーは、期待通り発揮されましたか。

権瓶

私はチームメンバーの人選にも携わったのですが、異なる社風や文化を持つ2社が共同で進めるプロジェクトの状況を、大きな興味を持って見ていました。メンバーの年齢も30代を中心に幅広く、また途中から外国人技術者が加わるなどして、多彩な顔触れが揃いました。木下さんがチームリーダーを担っていたのですが、個性的なメンバーをまとめるのに苦労したのではないでしょうか。

木下

若手でも自己主張が強いメンバーが揃っており、かなり“尖った”メンバーをあえて選んだのかなと感じました。実際、技術的な意見を交わす中で、メンバー同士がぶつかり合うことも多く、お互いに納得するまでに時間がかかることもありました。そういうときは、年齢は関係ありません。みんな自分が今まで培ってきた技術経験に自信があるので、年上の技術者に対しても「納得できないので説明してください」と言うこともあります。
でもそうやってお互いを刺激し合い、切磋琢磨しながら1つのチームとしてまとまっていくことで、強力なアウトプットを生み出すことができ、なおかつ個々のスキルアップを図っていくことができたのではないかと思います。

中山

私はチームメンバーの中では年上の方ですが、若い技術者に遠慮なくエンジニアとしての意見をされると「自分も昔はこんな感じだったな」とうれしくなってしまいます。もちろん、彼らからは大いに刺激を受けましたし、自分もまだまだ新しいことにチャレンジしていこうという気持ちになりました。

権瓶

このチームは、個々の強みを活かしつつ、足りない部分や欠点を別のメンバーが補うことができる、まさに理想的なチームになったと思います。

小野社長からも「このチームは尖ったメンバーばかり揃っているから、自由にやらせて創造性を活かせ」と言われていたので、私もあまり口出しすることなく静かに見守ってきました。その分リーダーは大変そうでしたが、よくまとめていたと思います。
車載用充電器を活用した今回の技術開発は、一般家庭などに設置する定置型への応用が可能であり、V2Hをはじめ多方面に水平展開できるので、そちらの技術開発においてもシナジーが発揮されるでしょう。

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